発疹熱の輸入感染症例の発生について

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou24/index.html

1 発生事例に関する情報
 今般、インドネシアのバリ島から帰国者した2名が、それぞれ平成20年3月中旬以降に相次いで発疹熱リケッチアRickettsia typhi による発疹熱を発症していたことが明らかになった。今回の事例は、2003年のベトナムからの帰国者での初事例以来のわが国の輸入感染症例である。

○症例1

患者: 23歳、男性。2月からバリ島にサーフィンのため滞在。浜辺近くのコテージに宿泊。3月10日帰国。

経過: 3月19日、発熱(40℃)、全身倦怠感、血尿で受診。その後、目の奥に痛み、皮疹が出現。血小板減少(5万)、血尿、肝機能障害あり。ミノサイクリンを約2週間投与し、経過良好で退院。

検査: 国立感染症研究所にて血液、血清、尿、皮膚発疹部から発疹熱リケッチア遺伝子を検出。初診時と回復期のペア血清でR. typhiに対して有意な抗体上昇。

○症例2

患者: 23歳、男性。 3月13日から3月28日までバリ島にサーフィンのため滞在。ホテルや一般住宅に宿泊。

経過: 帰国後3月29日から発熱(38℃以上)と頭痛を発症し、受診。
受診時、発熱38.8℃、関節痛、食欲不振、頭痛、前胸部と右前腕に発疹あり。患者は外来経過観察のみで自然軽快。

検査: 4月8日、国立感染症研究所にて血清から発疹熱リケッチア遺伝子を検出。

2 発疹熱について
 発疹熱(はっしんねつ)とは
  発疹熱リケッチアによる急性熱性・発疹性感染症
 病原体
  発疹チフス群リケッチアの発疹熱リケッチア(Rickettsia typhi )
 感染経路
  自然界ではネズミとネズミノミの間で感染サイクルが維持されており、ヒトへはネズミノミが感染源になる。感染は、吸血ノミの糞中に排出されるリケッチアが、刺咬部位を掻いてできた傷口から侵入して起こる。ヒトからヒトへの感染はない。
 流行状況
  古くから世界中で散発的な流行があるが、近年ではオーストラリア、中国、ギリシャイスラエルクウェート、タイ、アメリカ南部、スペイン、韓国などで報告されている。また、インドネシアからヨーロッパに帰国した3例が1997年に連続して発症している。わが国では1950年代以降は4例の報告のみ。輸入症例では、2003年にベトナムで発症して帰国後確認された例の報告がある。
 臨床症状
  6〜18日間(平均10日間)の潜伏期間の後、頭痛と発熱で発症、その後発疹が出現。発熱は弛張しながら2週間程度続く。症状は発疹チフスに似ているが、比較的軽症である。合併症や死亡例はまれであるが、ときに多臓器不全などの重症例があり高齢者では死に至ることもある。
 検査と診断
  病原体分離は困難で、急性期血液からの遺伝子検出があるが、一般的には血清診断が利用される。ワイル・フェリックス反応は特異性が低く、確定診断には特異抗原を用いた蛍光抗体法あるいは免疫ペルオキシダーゼ法などを用いる。急性期と回復期での4倍以上の上昇で確認する。検査は、地方衛生研究所または国立感染症研究所に依頼できる。
 治療
  ミノサイクリン、ドキシサイクリン等のテトラサイクリン系抗菌薬が最も有効で、ついでクロラムフェニコールや、ニューキノロン系抗菌薬も有効である。
 予防と対策
  効果的なワクチンはない。海外に渡航する場合、ネズミとの接触や、不衛生な滞在場所を避ける。ネズミの駆除と、殺虫剤の散布でネズミノミを駆除する。海外滞在中や帰国後に発熱、頭痛に発疹を伴った場合、本症を念頭に医療機関を受診する。

3 予防・対策等
 今後、東南アジア、特にインドネシア(バリ島)への渡航者は、ネズミが出没するような滞在場所を避け、ノミに刺されないようにすることと、もし海外滞在中や帰国後に発熱、頭痛に発疹を伴った場合は、医療機関を早期に受診することが望ましい。

 また、医療関係者に対して、発疹熱リケッチアRickettsia typhiによる発疹熱は、感染症法による届出疾患ではないが、四類感染症発疹チフス(病原体Rickettsia prowazekii)など他のリケッチア性疾患と類似の症状を呈すため、臨床現場での注意が必要である。



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