インフルエンザQ&Aより インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?

インフルエンザの治療薬や予防薬はありますか?
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc01.html#q05
  
A. 治療薬
本邦では1998年11月に、インフルエンザの治療薬として塩酸アマンタジン(商品名シンメトレル)が認可されましたが、この薬剤は従来、パーキンソン病の治療薬として1970年代から用いられてきましたが、抗インフルエンザウイルス効果を持つことがわかってきました。インフルエンザウイルスは、生体の細胞表面に吸着し、エンドサイトーシスで細胞内にとりこまれ、M2イオンチャネルが活性化されます。塩酸アマンタジンはM2イオンチャネルを阻害することにより、ウイルス粒子の細胞核内への輸送を阻止することで、抗ウイルス活性をもつと言われています。このようにA型だけが持つM蛋白に作用するため、A型インフルエンザのみにしか効果はありません。



また、2001年2月に、リン酸オセルタミビル(商品名タミフル)とザナミビル(商品名リレンザ)がインフルエンザに対して健康保険の適応となりました。インフルエンザウイルスが生体の細胞から細胞へ感染・伝播していくためには、ウイルス表面に存在するノイラミニダーゼが不可欠です。リン酸オセルタミビルとザナミビルはこの作用をブロックすることによって、増殖したインフルエンザウイルスが細胞外へ出て行くことを阻害する抗インフルエンザウイルス薬です。ノイラミニダーゼはA、B型に共通であることから、A型、B型インフルエンザ両方に効果があります。リン酸オセルタミビルは経口薬、ザナミビルは吸入薬です。2002年4月にはリン酸オセルタミビル(商品名タミフル)ドライシロップが健康保険の適応となり、1歳以上の小児で使用可能となっています。

これらのノイラミニダーゼを阻害する抗インフルエンザウイルス薬は、発症後48時間以内に服用することにより、合併症のないインフルエンザでの罹病期間を短縮することが確認されています。また、ハイリスク患者においてもそれまで健常な患者においても、下気道感染症や抗菌薬を必要とするような合併症、あるいは入院を減少させたという報告があります。


抗インフルエンザウイルス薬はいずれも、医師の処方が必要な薬剤です。


B. 塩酸アマンタジンを投与あるいは内服する際の注意事項
塩酸アマンタジンの副作用としては、主として嘔気などの消化器症状やふらつき、不眠、悪夢、幻覚、妄想などの精神神経症状がときに出現することがあります。また内服後は車の運転を避けることなどの注意が必要です。


また、塩酸アマンタジンは催奇性が疑われるため、妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与は禁忌となっています。授乳婦に投与する場合は、乳児に対する安全性も確立していませんし、乳汁中に薬剤が移行することが動物実験などで報告されていることから、投薬中の授乳を避けることが勧められます。またインフルエンザの予防や治療の投与中に自殺企図の報告があるので、精神障害のある患者、中枢神経に作用する薬剤の投与中の患者、てんかん又はその既往歴のある患者へは患者を注意深く観察するという警告が出ています。

アマンタジンを投与された患者の約30%でアマンタジン耐性のA型インフルエンザウイルスが出現するという報告があります。また、近年日本を含む多くの国で流行しているA型インフルエンザウイルスのほとんどは、アマンタジン耐性であることが報告されています(VIRUS REPORT. 2006; 3(1): 40-47 および MMWR 2006 Jan; 55(02): 44-46参照)。これらのことから、投薬には注意が必要であり、投与期間を1週間程度に止めることという使用上の注意が出されています。

C.リン酸オセルタミビルやザナミビルを投与あるいは内服する際の注意事項
副作用は、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が報告されています。リン酸オセルタミビル服用と異常行動の関連については、次項で詳しく述べます


リン酸オセルタミビルやザナミビルに関しては、妊娠中の投与に関する安全性は確立しておらず、動物実験では薬剤の胎盤通過性が報告されており、治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合にのみ投与することとなっています。


授乳婦に投与する場合は、乳児に対する安全性も確立していませんし、乳汁中に薬剤が移行することが動物実験などで報告されていることから、投薬中の授乳を避けることが勧められます。


リン酸オセルタミビルは1歳未満の乳児に対する投与の安全性および有効性が確立しておらず、ザナミビルは4歳以下の乳児および幼児に対する投与の安全性が確立していません。これらの年齢の児に対する投与には注意が必要です。


また最近、リン酸オセルタミビルにおいても耐性ウイルスの出現が報告されました。アマンタジン耐性、オセルタミビル耐性となったインフルエンザウイルスによる感染が容易に生じるかどうかは不明ですが、いずれにせよむやみな使用は慎むべきと考えられます。


D.リン酸オセルタミビルと異常行動の関連
2005 年11月に開催された第36回小児感染症学会総会において、リン酸オセルタミビル服用後の異常行動に関する報告がなされました。これに対して米国食品医薬品局(FDA)は、同学会で発表された症例を含むリン酸オセルタミビル内服後の小児死亡例に関して、報告された小児死亡とリン酸オセルタミビルとの間に因果関係があるとは結論づけられない、との見解を示しました。日本小児科学会も、リン酸オセルタミビルとこれらの死亡についての因果関係が明らかなものはないものの、今後も十分な市販後調査の継続と適切な公表を望むとしています。さらに、2006年11月に開催された第37回小児感染症学会における厚生労働省調査研究班(横田ら)の発表によれば、全国12都県の小児科医に対して行った調査で、医師 2,846件、患者・家族2,545件の回答から、リン酸オセルタミビルと異常言動との関連性は、リン酸オセルタミビルを使用しなかった群の発現頻度は10.6%、リン酸オセルタミビルを使用した群の発現頻度は 11.9%で、有意差を認めなかったとしています。

しかし一方で、リン酸オセルタミビル内服後早期に興奮状態に至ったという症例も同学会で報告されており、現在も継続して調査が実施されています。また、2006年11月13日に米国食品医薬品局(FDA)は、リン酸オセルタミビルと異常行動についての因果関係ははっきりしていないが、リン酸オセルタミビル服用後しばらくの間に異常行動がでる可能性も考えて、インフルエンザ患者、特に小児においては、経過中異常な行動がでないかどうか、きちんと経過観察しておくべきであると報告しています。



本邦におきましては、2007年2月28日に厚生労働省より、以下のような注意喚起がインフルエンザ治療に携わる医療関係者に対して行なわれました。『万が一の事故を防止するための予防的な対応として、特に小児・未成年者については、インフルエンザと診断され治療が開始された後は、タミフルの処方の有無を問わず異常行動発現のおそれがあることから 自宅において療養を行う場合、異常行動の発現のおそれについて説明すること、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮すること』


その後、3月20日厚生労働省は、以下のような内容で薬剤会社に対して、緊急安全性情報の発出および添付文書の改訂を指示しています。『10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。また小児・未成年者については、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、本剤による治療が開始された後は、異常行動の発現のおそれがあること、自宅において療養を行う場合、少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することについて患者・家族に対し説明を行うこと。なお、インフルエンザ脳症等によっても、同様の症状が現れるとの報告があるので、上記と同様の説明を行うこと。』


リン酸オセルタミビルと異常行動に関しては、今後の更なる調査と広い情報収集、および注意深い解釈が必要であると考えられます。

厚生労働省 医薬食品局安全対策課 タミフル服用後の異常行動について(緊急安全性情報の発出の指示)


E.インフルエンザの予防薬としてのリン酸オセルタミビル
2004年7月、リン酸オセルタミビルに対し、成人および13歳以上の小児を対象に予防薬としての効能追加が承認されました。米国の成績ですが、予防効果は82%と報告されています。その使用は、インフルエンザを発症している患者と同居する高齢者や慢性疾患をかかえるいわゆるハイリスク患者を対象としています。また、予防薬としての投与は健康保険の適応外であり、治療に使用する場合と同様に医師の処方が必要です。また、用法・用量も治療に使用する場合と異なっており、治療に使用する場合は1日2回、1回75mg(5日間)であるのに対して、予防投与の場合は1日1回75mg(7日間〜10日間)です。なお、リン酸オセルタミビルの予防投与はワクチンによる予防に置き換わるものではありません。

詳しくは
http://idsc.nih.go.jp/disease/influenza/fluQA/QAdoc01.html#q05
 
 
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