統合失調症の約2割が「カルボニルストレス性」であることを発見

米国精神医学専門誌「Archives of General Psychiatry(アーカイブズ・オブ・ゼネラル・サイキアトリー)」において研究成果を発表
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/06/20k68200.htm
統合失調症の約2割が「カルボニルストレス性」であることを発見
統合失調症の新たな早期診断法・治療法の開発に道
平成22年6月8日
(財)東京都医学研究機構
福祉保健局

 財団法人東京都医学研究機構・東京都精神医学総合研究所糸川昌成参事研究員と新井誠主席研究員らのグループは、東北大学大学院医学系研究科・医学部宮田敏男教授らとの共同研究において、いまだ原因の解明されていない統合失調症患者の約2割において「カルボニルストレス(※1)」と呼ばれる状態が見られること(カルボニルストレス性統合失調症)を世界で初めて明らかにしました。今回の発見により、血液中のビタミンB6濃度などを生物学的なマーカーとして利用することで、カルボニルストレス性統合失調症の早期診断が可能となり、また、新たな治療薬の開発につながる可能性があります。
 この研究成果は、精神医学界では最高峰とされる米国精神医学専門誌「Archives of General Psychiatry(アーカイブズ・オブ・ゼネラル・サイキアトリー)」(※2)の6月7日(米国中部時間)付オンライン版で発表されました。さらに、6月7日(米国中部時間)発行の「Archives of General Psychiatry」にも掲載されます。

1 研究の背景
 統合失調症は、100人に1人が発症するとも言われている精神疾患ですが、いまだにその発症原因は不明です。早期に発見し、早期に治療を開始すれば、良好な経過をたどって社会生活に復帰することも可能であるため、診断に有用な生物学的な指標(マーカー)の同定とともに、発症原因の特定及び治療法や予防法の開発は、精神科医療における最優先課題の一つとなっています。

2 研究成果の概要
 今回の研究では、一部の統合失調症に「カルボニルストレス」が関連していることを初めて明らかにしました。

 糸川研究員、新井研究員らのグループでは、まず、統合失調症患者(45例)の血漿成分を分析し、およそ半数の人(45例中21例)でペントシジン(※3)の蓄積が認められ、その場合のペントシジンの値は、健常者の約1.7倍にまで達していることを見出しました。著しいペントシジンの蓄積が見られた症例では、従来の治療では抵抗性を示す症例が多く見られました。

 また、活性型ビタミンB6(ピリドキサミン)(※4)には、カルボニルストレスを消去する効果があることが知られていますが、ペントシジン蓄積を伴った統合失調症患者(21例)のうち、およそ半数の患者(21例中11例)の体内ではビタミンB6が減少していることを見出しました。これは、ビタミンB6がカルボニルストレスを抑制するために動員され、枯渇した結果であると考えられます。
 今回の研究で、ペントシジンが蓄積し、かつビタミンB6の減少が見られる「カルボニルストレス性統合失調症」は、統合失調症の約2割(45例中11例)を占めることが明らかになりました。

 また、ヒトの体内には「グリオキサラーゼ代謝」(※5)と呼ばれる機構があり、ビタミンB6とは別にカルボニルストレスを消去する働きを担っています。糸川研究員、新井研究員らのグループでは、この機構に関与する酵素の一つであるグリオキサラーゼI(GLO1)に着目し、1,761名の統合失調症患者を含む3,682名の被験者のDNAを用いて遺伝子解析を行ったところ、一部の被験者から酵素活性の低下を引き起こす稀な遺伝子変異を同定しました。
 この稀な遺伝子変異を伴う統合失調症患者は、カルボニルストレスを伴っていましたが、健常者はカルボニルストレスが認められませんでした。このことは、遺伝子変異を伴う健常者においては、カルボニルストレスを消去する何らかの代償メカニズムが働いていることを示唆しています。

3 発見の意義
 今回の発見により、血液中のペントシジンやビタミンB6濃度、あるいはGLO1の遺伝子変異を解析し、これらを生物学的なマーカーとして利用することで、カルボニルストレス性統合失調症の早期診断が可能となります。
 また、活性型ビタミンB6(ピリドキサミン)は、カルボニルストレス性統合失調症の病態に根ざした治療薬となる可能性があります。
 さらに、今後、カルボニルストレスを消去する新たな代償メカニズムについて究明することにより、まったく新しい統合失調症の治療法や予防法の開発につながる可能性もあります。

用語説明
※1:カルボニルストレス
 生体内の糖や脂質、蛋白質などが反応性に富んだカルボニル化合物と反応(酸化ストレスなどが影響する)して産生される最終糖化産物(ペントシジンなど)が蓄積した状態のこと。

※2:米国精神医学専門誌「Archives of General Psychiatry(アーカイブズ・オブ・ゼネラル・サイキアトリー)」
 精神医学界で最高峰の学術雑誌であり、画期的で、かつ精神医学に大きな影響を与える発見しか掲載されない難関学術誌として有名。日本人だけで発見した成果が掲載されたこと(共著者を含め著者全員が日本人)は、1975年に長崎大の高橋良博士が躁病の画期的治療法を報告して以来、8報しか掲載されたことがない。

※3:ペントシジン
 最終糖化産物のひとつ。ペントシジン以外にもカルボキシメチルリジンやピラリンと呼ばれる物質なども知られている。

※4:活性型ビタミンB6(ピリドキサミン)
 水溶性の生理活性物質であるビタミンB6(ピリドキサミン、ピリドキシン、ピリドキサール)の化合物のひとつ。

※5:グリオキサラーゼ代謝
 反応性に富んだカルボニル化合物を生体内で解毒するシステムのひとつ。最終糖化産物が蓄積するのを防御する代表的な代謝の経路

※別添 カルボニルストレスを防ぐしくみ(PDF形式:64KB)
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/06/DATA/20k68200.pdf

問い合わせ先
(財)東京都医学研究機構東京都精神医学総合研究所
 電話 03−3304−5701
本部事務局
 電話 03−5316−3107
http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2010/06/20k68200.htm


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